債務整理を検討する際、多くの人が気にかけるのが保証人への影響ではないでしょうか。借金の返済に行き詰まり、債務整理に踏み切ることは、借金をした本人にとって大きな決断です。しかし、その影響は保証人にも及ぶことを忘れてはいけません。
保証人は、主債務者が借金を返済できなくなった場合、代わりに借金を返済する義務を負います。そのため、主債務者が債務整理をすれば、保証人が予期せぬ負担を強いられるリスクがあるのです。
しかし、債務整理と保証人の関係は複雑で、誤解も多いのが実情です。債務整理の種類によって、保証人への影響の度合いは異なります。また、保証人自身が債務整理をする場合の注意点もあります。
そこで本記事では、債務整理と保証人の関係について徹底的に解説します。債務整理が保証人に与える影響、保証人に優しい債務整理の方法、保証人と連帯保証人の違いなど、知っておくべきポイントを詳しく説明します。また、債務整理後に保証人になれるかどうかについても触れます。
債務整理を検討している方はもちろん、保証人になることを考えている方にも、ぜひ参考にしていただきたい情報が満載です。債務整理と保証人の関係を正しく理解し、賢明な判断をするための一助となれば幸いです。
目次
債務整理が保証人に与える影響
債務整理と保証人の関係性について
債務整理を行う際、保証人への影響を考慮することは非常に重要です。保証人とは、借金をした本人(主債務者)が返済できなくなった場合に、代わりに債務を返済する義務を負う人のことを指します。つまり、主債務者が債務整理を行うと、その借金の返済義務が保証人に移ることになるのです。
ただし、債務整理の種類によって、保証人への影響の度合いは異なります。任意整理の場合は、保証人のついている借金を整理の対象から外すことで、保証人への影響を最小限に抑えられる可能性があります。一方、個人再生や自己破産の場合は、原則として全ての借金が対象となるため、保証人への影響は避けられません。
保証人の責任と義務
保証人には、主債務者が債務不履行に陥った際に、代わりに借金を返済する義務があります。この保証債務には、借金の元本だけでなく、利息や遅延損害金なども含まれます。
ただし、保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」という2つの権利が認められています。催告の抗弁権とは、債権者から支払いを求められた際に、まず主債務者に請求するよう求める権利です。検索の抗弁権とは、主債務者に返済可能な財産がある場合に、そちらを差し押さえるよう求める権利です。
これらの権利は保証人のみに認められており、連帯保証人の場合は適用されません。連帯保証人は保証人よりも重い責任を負っており、借金の全額を返済する義務を負います。
主債務者が債務整理をした場合のシナリオ
主債務者が任意整理を行った場合、保証人のついている借金が整理の対象となれば、保証人に返済義務が生じます。ただし、任意整理で保証人付き債務を対象から外せば、保証人への影響は回避できます。
主債務者が個人再生を申し立てた場合、保証人は残債務を一括で返済するよう求められます。仮に個人再生により債務が減額されても、保証人はその減額分を支払う必要があります。
主債務者が自己破産をした場合、保証人は免責された借金の全額を返済しなければなりません。保証人が返済できない場合は、自身も債務整理を検討せざるを得なくなります。
連帯保証人の場合の影響の大きさ
連帯保証人は保証人よりも重い責任を負っており、主債務者が債務不履行に陥った場合、借金の全額を返済する義務があります。催告の抗弁権や検索の抗弁権も認められていません。
そのため、主債務者が自己破産や個人再生を行った場合の影響は甚大です。免責や減額された分の債務を連帯保証人が肩代わりすることになり、一括での返済を求められるのが一般的です。返済が困難な場合は、連帯保証人自身が債務整理を検討せざるを得ません。
また、2020年の民法改正により、個人が連帯保証人になる場合は極度額(上限金額)を定める必要があります。これにより、連帯保証人のリスクは以前よりは低減されましたが、それでも保証人よりは責任が重いことに変わりはありません。
以上のように、債務整理は保証人や連帯保証人に大きな影響を与えます。安易に保証人になることは避け、もし主債務者が債務整理を検討している場合は、事前によく話し合っておく必要があるでしょう。債務整理の方法によっては、保証人自身の生活も脅かされかねないのです。
保証人に優しい債務整理の方法
任意整理、個人再生、自己破産の比較
任意整理 | 個人再生 | 自己破産 | |
---|---|---|---|
手続きの種類 | 裁判所を通さない私的な交渉 | 裁判所を通した法的手続き | 裁判所を通した法的手続き |
借金の減額 | 利息カットのみ (元本は減額されない) | 原則として借金の元本が約80%カット | 原則として借金がゼロになる |
返済期間 | 3年~5年程度 | 原則3年~5年 | 返済不要 |
対象となる借金 | 任意に選択可能 | 原則として全ての借金 | 原則として全ての借金 |
財産の扱い | 手放す必要なし | 一定の財産は残せる | 一定額以上の財産は処分 |
保証人への影響 | 保証人付き債務を対象外にすれば影響なし | 保証人に一括請求される | 保証人に一括請求される |
資格への影響 | なし | なし | 一部の職業で制限あり |
信用情報への影響 | 5年程度の登録 | 5~10年程度の登録 | 5~10年程度の登録 |
債務整理には主に任意整理、個人再生、自己破産の3つの方法があります。それぞれ保証人への影響の度合いが異なるため、保証人のことを考えて債務整理の方法を選ぶ必要があります。
任意整理は、債権者と個別に交渉して借金を減額したり、分割払いにしたりする方法です。保証人のついていない借金だけを任意整理の対象にすれば、保証人への影響を最小限に抑えられます。ただし、保証人付きの借金を対象から外した場合、その分は保証人が返済しなければならなくなります。
個人再生は、裁判所を通して借金を大幅に減額する方法です。原則として保証人の債務も減額されず、保証人は減額分を肩代わりして支払う必要があります。ただし、住宅ローンは別枠で返済できるため、本人が計画通り返済していれば保証人が請求されることはありません。
自己破産は、裁判所に申立てをして借金をゼロにする方法です。保証人の債務は免責されないため、保証人は残りの借金全額を一括で返済しなければなりません。自己破産は保証人への影響が最も大きい債務整理方法と言えるでしょう。
保証人への影響が最も少ない方法
上記の比較から、保証人への影響が最も少ない債務整理の方法は任意整理だと分かります。保証人付きの借金を任意整理の対象から外せば、原則として保証人に迷惑をかけずに債務整理ができます。
ただし、任意整理で保証人付きの借金を対象から外すためには、その分を自力で返済できる見込みがなければなりません。返済が難しい場合は、保証人にも債務整理を検討してもらう必要があるでしょう。
また、任意整理の途中で自己破産に切り替えた場合、保証人付きの借金だけを先に返済したことが「偏頗弁済」に当たり、免責が認められない可能性もあります。弁護士に相談して、慎重に方法を選ぶことが大切です。
債務整理前に保証人と話し合うことの重要性
どの債務整理の方法を選ぶにしても、事前に保証人に状況を説明し、理解を得ておくことが重要です。保証人が請求を受けた時に初めて債務整理の事実を知るようでは、トラブルになりかねません。
保証人との信頼関係を損なわないためにも、債務整理を決意した時点で真摯に事情を話し、協力を仰ぐ姿勢が求められます。もし保証人も支払いが難しいようであれば、一緒に債務整理について検討してもらうのも一案です。
ただし、保証人に迷惑をかけるからといって、債務整理後に内緒で保証人に支払いをするのはNGです。これは偏頗弁済に当たり、免責が認められなくなる恐れがあります。
債務整理は保証人への影響を避けられない手続きですが、事前によく話し合い、できる限り迷惑をかけない方法を探ることが肝要です。専門家に相談しながら、保証人のことも考えて債務整理の方法を決めていきましょう。
保証人と連帯保証人の違い
保証人と連帯保証人の定義
保証人と連帯保証人は、ともに借金の返済を保証する役割を担いますが、その責任の度合いが異なります。
保証人とは、主債務者が債務を履行しない場合に、代わりに債務を履行する義務を負う人のことを指します。保証人は主債務者が返済できなくなった時点で、残りの借金を肩代わりして支払う必要があります。ただし、保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」という権利が認められています。
「催告の抗弁権」とは、債権者から支払いを求められた際、まず主債務者に請求するよう求める権利のことです。一方、「検索の抗弁権」とは、主債務者に返済能力があるかどうかを調べるよう債権者に求める権利のことを指します。これらの権利を行使することで、保証人は一定の保護を受けられます。
これに対し、連帯保証人とは、主債務者と同等の責任を負う保証人のことを言います。連帯保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」が認められていないため、債権者から請求があれば、主債務者の返済状況に関わらず、直ちに借金を支払わなければなりません。
つまり、連帯保証人は保証人よりも重い責任を負っていると言えるでしょう。
債務整理時の責任の違い
主債務者が債務整理をした場合、保証人と連帯保証人では、その影響の度合いが異なります。
保証人の場合、主債務者の債務整理によって、保証人が借金の返済を求められるリスクがあります。ただし、主債務者の財産状況などによっては、「検索の抗弁権」を行使できる可能性があります。また、主債務者が任意整理で保証人付きの借金を対象から外せば、保証人が請求されることはありません。
一方、連帯保証人の場合は、主債務者の債務整理の影響を大きく受けます。主債務者が自己破産や個人再生で借金を減額・免責されても、連帯保証人の債務は残ったままです。連帯保証人は、主債務者に代わって残りの借金全額を一括で返済しなければなりません。仮に分割払いを認めてもらえたとしても、連帯保証人の返済負担は非常に重くなるでしょう。
結局、連帯保証人も債務整理をせざるを得なくなるケースが多いと言われています。
連帯保証人になる際の注意点
連帯保証人になることは、大きなリスクを伴います。安易に引き受けることは避け、十分に注意する必要があります。
特に、主債務者の借金の使途や返済計画をよく確認し、将来的に返済できなくなるリスクがないかを見極めることが大切です。また、主債務者との関係性も考慮する必要があります。家族や親しい友人であっても、金銭トラブルをきっかけに関係が悪化するケースは少なくありません。
万が一、連帯保証人になる場合は、保証契約の内容をよく確認し、リスクを理解した上で判断しましょう。できれば、公正証書で保証契約を結び、主債務者との間で「求償権」を取り決めておくことをおすすめします。これにより、主債務者が返済できなくなった場合に、連帯保証人が代わりに支払った分を主債務者に請求する権利を確保できます。
ただし、主債務者に返済能力がない場合、求償権を行使しても回収できない可能性が高いです。連帯保証人になる際は、最悪の事態も想定して、慎重に検討する必要があるでしょう。
保証人自身が債務整理をする際の注意点
保証人が債務整理をする必要がある状況
主債務者が債務整理をした場合、保証人は借金の返済を求められることになります。特に自己破産や個人再生の場合、保証人は残りの借金全額を一括で返済しなければなりません。しかし、保証人自身も返済能力がない場合は、債務整理を検討せざるを得ないでしょう。
保証人が債務整理を検討すべき状況としては、以下のようなケースが考えられます。
- 主債務者の借金額が高額で、保証人に一括返済が困難な場合
- 保証人自身にも他の借金があり、返済が滞っている場合
- 保証人の収入が減少し、返済が難しくなった場合
- 保証人が病気やケガで働けなくなり、収入が途絶えた場合
このような状況に陥った保証人は、弁護士に相談して、自身の債務整理について検討する必要があります。放置すれば、保証人自身が借金に苦しむことになりかねません。
保証人が債務整理をする際の手順
保証人が債務整理をする際の手順は、主債務者の場合と基本的に同じです。まず、弁護士に相談して、自身の財産状況や収入、借金の内容などを詳しく説明します。その上で、弁護士と相談しながら、最適な債務整理の方法を選択します。
保証人の場合、任意整理よりも個人再生や自己破産を選択することが多いでしょう。主債務者の債務整理によって、保証人が多額の借金を抱えてしまうケースが多いからです。個人再生や自己破産であれば、借金を大幅に減額したり、免責したりできます。
ただし、保証人が債務整理をする場合は、主債務者との関係にも注意が必要です。保証人が債務整理をすれば、主債務者に対する求償権が発生します。つまり、保証人は主債務者に対して、代わりに支払った分の返済を求めることができるのです。しかし、主債務者に返済能力がない場合、求償権を行使しても回収は困難でしょう。
保証人の債務整理が与える影響
保証人が債務整理をすれば、信用情報に傷がつき、一定期間は新たな借り入れができなくなります。また、職業によっては、債務整理をしたことが理由で解雇されるリスクもあります。
さらに、保証人が債務整理をすれば、主債務者との関係が悪化するおそれもあります。特に、主債務者が家族や親しい友人である場合、債務整理をきっかけに絶縁状態になってしまうこともあるでしょう。
ただし、債務整理をせずに借金を抱え続けるリスクを考えれば、保証人が債務整理をするメリットは大きいと言えます。弁護士に相談して、メリットとデメリットを十分に検討した上で、債務整理に踏み切ることが重要です。
また、保証人が債務整理をする際は、主債務者にもきちんと説明し、理解を求めることが大切です。保証人の債務整理が、主債務者の生活にも影響を及ぼす可能性があるからです。お互いに納得した上で、債務整理の手続きを進めていくことが望ましいでしょう。
債務整理後に保証人になれるか
債務整理後のブラックリスト期間
債務整理を行うと、信用情報機関にその情報が登録され、いわゆる「ブラックリスト」に載ることになります。この期間は、債務整理の種類によって異なります。
任意整理の場合、完済から5年間はブラックリストに載ります。一方、個人再生や自己破産の場合は、手続き開始から5年~10年間ブラックリストに載ることになります。
この期間中は、新たな借金やクレジットカードの作成が難しくなるだけでなく、保証人になることも原則的にできなくなります。これは、債務整理をした人は信用力が低いと判断されるためです。
ブラックリスト期間中に保証人になることの是非
ブラックリスト期間中は、基本的に保証人になることは難しいでしょう。仮に保証人になれたとしても、それは望ましいことではありません。
なぜなら、債務整理をした人は信用力が低いと判断されているため、保証人としての適格性に欠けると考えられるからです。万が一、主債務者が債務不履行に陥った場合、保証人としての責任を果たせない可能性が高いでしょう。
また、ブラックリスト期間中に無理に保証人になろうとすることで、かえって信用力が低下してしまう恐れもあります。債務整理をした事実を隠して保証人になれば、後々問題になる可能性も否定できません。
したがって、ブラックリスト期間中は、保証人になることは避けるべきだと言えます。この期間は、自身の信用力を回復させることに専念し、安易に保証人にならないことが賢明でしょう。
ブラックリスト解除後の保証人の可能性
ブラックリスト期間が終了し、信用情報機関から債務整理の情報が削除されれば、徐々に保証人になれる可能性が出てきます。ただし、すぐに以前と同じように保証人になれるわけではありません。
債務整理をした事実は、信用情報機関からは削除されても、貸金業者の独自のデータベースには残っている可能性があります。そのため、ブラックリスト解除直後は、まだ保証人になれない場合もあるでしょう。
また、債務整理をした事実を貸金業者に知られずに保証人になれたとしても、その後、債務整理をしたことが発覚すれば、信用を大きく損なう恐れがあります。
したがって、ブラックリスト解除後も、すぐに保証人になるのは避けたほうが無難です。まずは自身の信用力を着実に回復させ、安定した収入と資産形成に努めることが大切でしょう。その上で、十分に信用力が回復したと判断できる場合に限り、保証人になることを検討すべきです。
いずれにしても、債務整理をした事実は、一定期間、保証人になる上でのハンデになることは避けられません。ブラックリスト期間中はもちろん、解除後もしばらくは、保証人になることには慎重を期す必要があるでしょう。
まとめ
- 債務整理は保証人にも影響を与えるため、保証人のことを考慮して方法を選ぶ必要がある
- 任意整理は保証人への影響が最も少ない債務整理方法である
- 保証人と連帯保証人では責任の度合いが異なり、連帯保証人の方がリスクが高い
- 保証人自身が債務整理をする場合は、主債務者との関係性にも注意が必要である
- 債務整理後のブラックリスト期間中は保証人になれないが、解除後は可能性がある
債務整理を検討する際は、保証人への影響を十分に考慮し、できる限り迷惑をかけない方法を選ぶことが重要です。また、保証人になる際は、リスクを理解した上で判断することが求められます。